ジュニア期のトレーニングに必要な事
【競泳ジュニア選手について】
競泳のトレーナーとして活動しているため、ジュニア選手(高校生以下)の
親御さんやコーチの方々から、ご相談いただくことが多くあります。
中でも「陸上でのトレーニングにはどんな事をすれば良いですか?」と言った
問い合わせやご相談が多く、またトレーニングの実施における環境や
認識もまだまだ整っていないなぁと感じる事が多いです。
今回はジュニア期のトレーニングに必要な事を述べさせていただきます。
1、「小学生でも筋トレは必要なんでしょうか??」
よくスイミングのジュニアのコーチの方々にご相談される質問です。
答えは「必要です」
ただ注意していただきたい事は、ここで意味する筋トレは
大胸筋や僧帽筋などをムキムキに発達させる様な筋肥大を目的とした
トレーニングでは無く、自分の体重を正しい関節の動きと身体操作感覚で
正確に扱える様になる事を目的としたトレーニングを意味します。
筋肥大 ×
神経や動作の教育目的 ◯
具体的にどう言う事かと…
動作にはしなやかに動いて欲しい関節(Mobility関節)と
動作中は柔軟性や可動性よりも、骨、関節を安定させて、出来るだけ動揺しない
で欲しい関節(Stability関節)に分ける事が出来ます。
これは傷害予防とパフォーマンス向上の両側面で必要な事ですが
例えば競泳のクロールを泳ぐ際に、手で水をかいて推進力を得ます。
この際に肩関節の可動域が十分に確保されていない場合、
手を前方に伸ばした際に、不足している肩関節の可動域を
肩甲骨を上方に挙げて代償する事で、肩甲骨が不安定な状態となり
結果的に肩関節を痛めるケースに陥ります。
肩甲骨を止める事(Stability)が出来ずに、
肩が上がった状態(首をすくめ肩甲骨が挙がり、僧帽筋に力の入った状態)に
なると、肩関節が上方に押し出されたまま水圧の負荷がかかります。
肩の構造上、この様な状況に陥ると肩関節が前上方に押し出せれてしまい
関節の痛みや炎症を招く動作となってしまいます。
ダンベルや重りを使った強度の高い負荷では無く、
チューブなどを使い、肩甲骨が土台となる様に正確にコントロール
しながら、行うトレーニングが望ましいでしょう。
※試合会場やスイミングレベルで取り組まれているチューブを引くトレーニングは
肩を正しく使えている、適切な動作とは言い難いケースが多いです。。。
2、未だに柔軟性ばかり追い求めたストレッチが横行している…
肩の柔軟性に対する認識が間違っている事が多くあります。
確かに水泳という競技では推進力を生むプルやキックの強化と同様に
同じぐらい 「抵抗を減らす」 というテクニックの向上が必要です。
そしてそのテクニックには、動作をしなやかに、抵抗なく、無理なく
動かすための関節の可動域が重要です。
ですが昔から。。。の名残があるため
肩関節のストレッチばかり追い求めた、間違ったストレッチが横行しています。
特にジュニアの女子選手や男子でも関節の柔らかい選手は要注意です。
肩甲骨や胸郭の可動性と肩関節や股関節との連動性だけをポイントで
押さえておいて、肩関節に特化したストレッチはこの頃は無用かもしれません。
特に肩が180度近く後ろに回ってくる様な、不必要な柔軟を今でも
それが良いと思って取り組まれているケースが多い。。。
これは間違いなく、肩にとっては「悪」になります。
3、体幹トレーニングの目的や意図が浸透していない…
これもストレッチ同様によく陥っています。
・誰かがやっていた
・どこどこのチームがやっていた
・地域の選抜合宿で教えてもらった
・みんながやっている
という様に、指導する側(やらせる側)や選手が
そのエクササイズの目的、ポイント、注意点を理解していない場合が多いです。
これは非常に勿体無いし、間違った認識でトレーニングを積むと
間違った使い方がクセとして体に教育されてしまいます。
同じフロントブリッジ(写真)にしてもポイントや注意点が
細かく存在し、完璧に出来ている選手は高校生でも少ない程です。
正しい形やポイントを理解して取り組み続けると
2〜3ヶ月もすれば、課題となっていた肩甲骨の安定性や
姿勢のとり方が改善します。 その積み重ねが泳ぎやフォームを
安定させるものだと思います。
先ずは正しくフォームやポイントを課題に落とし込んでアドバイスして
もらう事をお勧めします。
4、高校生になった時に、自分の体を正確に動かせる選手が少ない…
この点は先に述べた
・間違ったストレッチ
・間違ったトレーニング
→ 養われてこなかった、動作感覚と空間認識
にあると思います。
例えば基本的なトレーニングとなる「スクワット」ですが
足関節、膝関節、股関節、骨盤、脊柱、胸郭といった様に
各関節や部位が相互に連動して動く事で正しいフォームが
構築されます。
「デッドリフト」にしても脊柱〜体幹をニュートラルポジションで
安定させた上で、股関節の伸展運動を行うものですが
先ずニュートラルポジションが取れない。。。
脊柱が真っ直ぐに保持出来ない。。。
修正の仕方がわからない。。。
といった具合に口頭でのコーチングが、すんなり入るケースが
少なく、あれやこれやと試行錯誤してようやく、感覚を掴むという
ケースが多いです。
ですが、この動作感覚や認識の差が、レベルの差にあると思うのです。
一歩抜けている選手は感覚が良い。
逆にポテンシャルは高いのに、活かせていない選手は、そこが足りない。。。
認識がずれているが故に、フォームが崩れていたり、自身の体の動きに
アンバランスが生じていても、感覚で認識できない。
なんだか分からないけど、どんどん調子が悪くなる。。。
というケースに陥ってしまいます。。。
私も普段チームへの関わりとしては、この部分を特に注意して
選手には細かく教えて、実際の動作を習得するまで指導しています。
この正しい動きやフォーム無しにして、パフォーマンスアップはありません。
5、レース前になると陸トレを中止してしまう…
これは一番難しい内容かもしれません。
正直なところ、選手個々によって、いつまでにどれぐらい実施すれば
一番良いコンディションでレースに挑めるかは違うからです。
ですが、近年では陸上トレーニングを常時取り組んでいるチームも多く
練習期間は筋肉も張りがあり、出力も出せる状況にあります。
ただレース前になると、疲労を出来るだけ抜こうとするため
陸上トレーンングを全て中止してしまう選手も居ます。
この場合 一定以上の筋疲労が抜けて、張力(張り)が低下すると
筋自体が持っていた姿勢保持能力(張り)が低下してしまい
疲労は抜けているはずなのに、体が怠い、重いと感じる事になります。
選手はそのタイミングで「ストレッチが足りない」「まだ疲れている」と
勘違いして、どんどん筋肉を緩めて、益々筋肉の張力が低下する
というケースに陥ります。
この状況では筋肉の出力は低下しており、張力も低下しているため
バネがゆるゆるに伸びた状態に近いとイメージしてください。
レースでベストパフォーマンスが発揮できるわけがありません。
私が関わるチームではレースに近ずくにつれ、セット数や回数を減らし
全体の仕事量を減らすところから、負荷は一番力の入りやすく
尚且つ早く動かせる負荷を選択して使うように指導しています。
レースの5日前ぐらいまでトレーニングとして行い、
その後レース中も含めて、補強やW-UPとして5〜10回程度
筋肉に刺激を入れて、力を出す事を続けています。
選手には何故やった方がいいのか?という根拠を説明して
取り組ませています。 レース中はケアの希望と同様に
W-UP前やレース前に補強を見て欲しいと希望が多くあります。
疲れを限りなくゼロにすることが、ベストパフォーマンスに繋がる
訳ではありません。
今回ポイントにした5つの内容は今後細かい点で記事にできればと思って
います。